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旅のシーン撮影を得意とするフォトグラファー、福本玲央さんに再会。2023年3月掲載のWITH OUTDOORの記事では、行き当たりばったりのパタゴニア旅の話をうかがいました。今回は、福本さんが望み続けた南極遠征行。加えて現地で撮影した写真を使用した、マウンテンハードウェアとのアースデイコラボTシャツ発売を通して、より深まったという旅への想いを伺います。
学生時代の旅での体験を機に、改めて旅をせずにはいられない性分を自覚。旅をしながら写真を撮ることで生きていく、20代後半でフォトグラファーに転身した福本さんのプロフィールは、WITH OUTDOORの記事で紹介しました。過去に北極圏へ赴いたことが、今回の南極に向かう理由の一つだったと言います。
「北極圏を旅し、そこに広がる自然や文化に強く興味を抱き、いつか南極へも訪れたい……。お話しするたび申し訳ない気持ちになりますが、僕の旅の動機はいつも単純で、まだ見ぬ世界を“見たい”という好奇心なのです」
本当はカッコいい理由を言いたいとこぼす福本さんの照れ臭そうな笑顔は1年前とまったく変わらず。そしてまた、常に旅のチャンスをうかがい続ける意欲もまるで変わっていませんでした。
「南極のエクスペディションチームとは、以前からコンタクトを取っていました。その彼らから2022年の夏、この年末に席が空くかもしれない、と突然連絡が来たんです。細かいことは考えずにまず“行く”の返事を出しましたが直後に焦り始めました。費用の準備をしないとヤバいぞって。行く以外に選択肢はなかったんですけれど……。そこから出発までの準備に取り掛かり、多くの方のサポートをいただき出発することができました」
そうして日本を発ったのが2022年12月上旬。まず北米のアトランタまで13時間。すぐにトランジットして南米のチリのサンチャゴ空港まで10時間のフライト。サンチャゴ空港で一泊し翌日にチリの最南端の都市プンタ・アレーナスへ移動。一般的な南極半島への観光ルートはそこからさらに南に位置するアルゼンチンのウシュアイアから船で3日間かけ、荒波で有名なドレーク海峡を渡るルートだそうです。しかし今回の遠征では、プンタ・アレーナスからチリ政府が認可した飛行機に2時間乗り、チリ軍が所有する基地に着陸するという特別なものでした。
「チリ軍が保有する基地には人工物がいくつもあったので、到着直後は南極の実感が沸きませんでした。ですが、浜辺からゾディアックボート(ゴムボート)に乗り、沖に停泊しているアドベンチャー仕様の船に乗り換え、今回の旅がスタートした瞬間、目の前に南極が迫ってきました」
半島に沿って上陸ポイントを巡る船。その甲板から見えたのは、海から切り立つ1,000メートル級の氷の壁。世界中を旅してきた福本さんですらそのスケールには、自然への畏怖の念を抱いたそうです。
「目や耳に飛び込んでくるものすべてが美しかった。上陸用のゾディアックボートのエンジンを切って漂流すると、すぐそばからプチプチと小さな破裂音が聞こえてくるんです。流氷の中に閉じ込められていた、何千年前、何十万年の気泡が弾ける音なんだそうです。言葉もないまま、ロマンに浸りました」
福本さんは今回、フォトグラファーとして意欲を携え撮影に臨みました。一つは、動物とのセッション。向かった12月中旬は厳しい冬が明け、野生動物の活動が始まる時期なので、野生動物との出会いを楽しみにしていたものの、単なる記録に留めたくなかったそうです。その心掛けが南極に響いたのか、旅が始まってすぐザトウクジラが福本さんの目の前に現れました。
「航海が始まってすぐに海面に飛び出すザトウクジラのブリーチングの瞬間に出会いました。幸先がよかったですね。その後はペンギンやアザラシなどの野生動物たくさん見かけることになります。その個体一つひとつに対して、ポートレイトを撮る気持ちで臨むことをテーマに掲げていました。寒い中でも待っていると、向こうから目を合わせてポーズを取ってくれるような、そんな瞬間が何度もあったんです。」
動物たちとの邂逅で、特に印象に残っているのはアデリーペンギンとヒョウアザラシの2ショットでした。一見すると微笑ましい光景ですが、実際は野生動物の生き様を写し出すシーンだったそうです。
「1羽のペンギンが氷の上で佇んでいました。僕には哀愁を帯びた美しい姿に見えたので、ゾディアックボートを操縦していたエクスペディションリーダーに海氷に近づくように声をかけました。ペンギンに近づきながらファインダーを覗き、目の前の美しい光景に夢中になっていると、リーダーが“ペンギンが警戒している、様子がおかしい”というのです。ボートの上に緊張感が走り、辺りを見渡していると、一頭の大きなヒョウアザラシがボートの下を潜り抜けていきました。ヒョウアザラシがペンギンを狙っていたのです。つまりこのシーンは、双方の命を懸けた攻防なのです。生きるために狩りをするアザラシと生きるために逃げるペンギン。最後はペンギンが逃げ切りましたが、アフリカのサバンナで垣間見るようなワイルドライフを南極の地で遭遇できたことは貴重な体験になりました。同時に、人間だけが金や土地の為に互いの命を奪い合う生き物である、ということを考えさせられました」
もう一つの意欲は、ドローンの用意に込められていました。貴重な南極大陸の現在を記録する為、厳しい許可申請を長い時間をかけて乗り越え、現地での撮影に臨みました。
「同じものでも、見方によって違うものが見えてくる。そんな当たり前のことに、ドローン撮影を通じて改めて気付かされる機会になりました」
ゾディアックボートによるウェットランディングを繰り返す南極遠征。マウンテンハードウェアのゴアテックス・ビブパンツが重宝したという日々は、当初の予定を大幅に繰り上げる事態に遭遇します。
「5日目の夕方、嵐が迫っているので旅を中断すると告げられました。しかも判断を間違えば、2~3週間は停泊しなければならないと。僕はまだ南極に留まっていたかったのですが、船のキャプテンとリーダーはこのままドレーク海峡に進んでチリに戻る決断を下しました。あの難所を渡らなくていい行程だったのに、丸2日間大波に揺られて旅が終了。大幅な日程変更は残念でしたけれど、同時にまた来なさいというメッセージを受け取った気持ちになりました。同じ場所を再訪することで変化を感じる。極地撮影を継続的に続けていく、その覚悟の決まった旅になりました」
福本さんの南極遠征をこのタイミングで紹介するのは、旅立ちから1年余りを経て結実するプロジェクトがあったからです。
毎年4月22日のアースデイ。「地球を考える日」に際し、マウンテンハードウェアは「KEEP EARTH AWESOME」というメッセージに基づいて、アースデイにちなんだTシャツを販売。3回目の今年は、福本さんの写真の採用が決まっていました。このプロジェクトの進行過程で、福本さんは想定外の問い掛けに直面します。
「Tシャツのデザインについて打ち合わせをしているなかでデザイナーの北田さんが、僕が旅をしながら撮影するという行為に向き合ってくれました。その上で、僕の旅と写真に寄せる思いを共有したいと言ってくれたのです。とてもありがたかったのですが、これがなかなか苦しい作業になりました」
苦しんだのは、他者にも理解しやすい言葉で旅する気持ちを表すことでした。
「ひとまずノートに書き出してみたんです。なぜ僕は旅をしたいのか。『好奇心』から始まり、僕の好奇心は何に惹かれているのか。都市や歴史の文化、極域や原生自然などの自然環境、目的地はそれぞれだけれども、考えていくうちに僕の原点は『自然のエネルギーを感じる場所』になった。それって地球だなって。気がついたらアースデイの理念に近づいていました」
そんな思いを知った北田さんは、福本さんの旅手帳を発見します。
「そこに記していたのは、現地でエクスペディションスタッフに教えてもらった詩で、コールリッジというイギリスの詩人の『老水夫の歌』の一部でした。現地では詩の意味をしっかり理解できていなかったのですが、帰国後調べてみると、氷に囲まれた南極で自然の脅威が綴られた詩だと分かり、出会えて良かったと思っていました。そのストーリーを聞いた北田さんが、“福本らしい”旅のストーリーだと受け取ってくださり、旅手帳に書いた僕の字をそのままTシャツにスキャンしようと、デザインに落とし込んでくれました」
そうして選ばれた写真には、福本さんに気づきを与えたドローン撮影の作品が含まれています。
「『KEEP EARTH AWESOME』の文字も僕の手書きですけれど、このメッセージ通りなんですよね。素晴らしい地球をそのままに。環境保全に関して、僕は他者に対してこうするべきという考えはありません。その一方、世界中を旅していると、人間の活動が自然を脅かしている場所にも遭遇します。その事実を理解した上で僕が言えるのは、この地球には美しい場所がまだたくさん残っているということ。そこを僕が旅をして、撮った写真を見てもらって、たとえばこのコラボTシャツによって、“何か”を考えるきっかけになって欲しいと思っています。旅をする、という行為に深みのある想いを抱けたのも、今回の南極の旅のおかげです。
もし僕がこの製品の正しい使い方を決めて良いのならば、使い込んでリペアしてボロボロであればあるほど格好良い、というものにしたいです。もし偶然、ボロボロになったこのTシャツを着ている人と山の上で出会えたら、最高に嬉しいです」
北極圏から南極大陸まで世界を旅し続けたこの10年。その節目に過去の旅をまとめた作品を発表する構想もあるそうです。それを眺めることができたら、本人すら確かな言葉を得ていない旅する思いに共感できるかもしれません。いずれにしても福本さんには、好奇心の赴くまま旅をしてもらい、この世界のまだ知らない美しさを紹介し続けてほしいです。
フォトグラファー。北極圏や南極大陸の極域や原生自然環境のアウトドアフィールドの世界からシャーマニズムなどカルチャーの世界まで旅をしながら撮影を行う。旅や冒険の中で出会う、そこに存在する人々や風景の至福の瞬間を収める。